平成20年新調 宮本町(岸和田)正面土呂幕
夏之陣 道明寺合戦 薄田隼人
大坂夏之陣の名場面。下唇を噛み鬼の形相で松平忠昌を睨み付け鉄棒で馬を一撃する。
この土呂幕は、平成二十年の作品で、木下彫刻工芸の職人時代のもの。
我々彫刻師は、下絵を描く際、その物語を理解し、錦絵や昔の彫刻を参考にしながら描くのですが、この場面は史料が少なく、苦労したことを思い出します。この場面を描いた錦絵も一枚しかありませんでした。
史料が少ないにもかかわらず、この薄田隼人がなぜ地車彫刻ではよく彫られているのか。それは、おそらく講談の影響が大きいと考えられます。
歴史的にはそう有名でもない薄田隼人でしたが、講談では英雄だったようです。
そこで、四代目旭堂南陵先生にお願いし、このお題での講談を披露していただきました。
話芸である講談は情景描写に優れており、下絵の構想にとても役立ちました。
このようにして、彫刻の土台となる下絵が出来上がり、彫刻の作業に取りかかったのですが、宮本町といえば私の産土神社である岸城神社の宮本。あのコナカラ坂を必ず一番に上がり、そして一番に宮入する地車です。
その地車の顔である正面土呂幕。いやが上にも鑿の握る手に力が入りました。

馬乗り二体を対峙させることも考えましたが、ここは左側の馬乗り(松平忠昌)一体を倒して中央に空間を作り、奥までよく見える構図にしました。また、馬具の厚総は朱色とすることが多いのですが、墨で表現することで、落ち着きを持たせました。通常は一種類の木々で飾るのですが、ここでは松と紅葉の両方を配して、より豪華な見栄えを追求しました。
当時の私の持てる力をすべて出し切った作品となりました。